2020年「専利審査指南」第二部分第九章に対する改正解読
新しく改正の「専利審査指南」(以下「指南」という)は2020年2月1日より施行した。より良く専利の出願と審査の実践を導くために、現在、今回の改正の主要内容を紹介して解読する。
改正背景
党中央・国務院の知的財産権保護強化に関する政策決定・手配を全面的に貫徹し、
人工知能等の新業態・新分野にかかる専利出願審査規則をより明確にすることに対する革新主体からのニーズに対応するために、国家知識産権局は新業態・新分野にかかる知財保護制度に関する主題研究を展開した、問題の整理と審査実践経験の総括の上で、タイムリーに「指南」の改正を起動した。今回の改正では、専利審査の質と効率がさらに向上し、革新駆動の発展を支持する目標の実現を目指して、関連分野の専利出願の審査規則を修正・詳細化し、審査実践中の多くの難問を解明した。
改正内容
「指南」の第二部分第九章に、「アルゴリズムの特徴又は商業規則・方法の特徴の発明専利出願を含む規定」を主題とする第六節が追加された。小節の6.1、6.2、6.3節は、それぞれ「審査基準」、「審査例」、「明細書及び請求の範囲の作成」である。
(一)審査基準(第6.1節)
第6.1節の審査基準の部分に審査の一般原則が確立された。
1、請求項の全体を考慮する原則が強調される。
人工知能、「インターネット+」、ビッグデータ及びブロックチェーン等に関連する発明専利出願には、請求項にアルゴリズム又は商業規則・方法等知的活動の規則と方法特徴が含まれていることが一般的である。今回の改正に明確されたのは、審査にあたっては、技術的特徴とアルゴリズムの特徴又は商業規則・方法の特徴等とを簡単に切り離してはならない。請求項に記載のあらゆる内容を一つの全体として考慮しなければならない。これらの特徴を直接的に無視したり、技術的特徴と機械的に切り離したりしては、発明の実質的な貢献を客観的に評価することができず、本当の発明創造を保護するには不利である。
2、請求項は知的活動の規則と方法に属するかどうかに関する審査基準(第6.1.1節)が明確された。
今回に改正に、明確されたのは、請求項が抽象的アルゴリズム又は単純の商業規則・方法に関わるが、いかなる技術的特徴も含めでいない場合、この請求項は知的活動の規則と方法に該当し、専利権を付与してはならないことである。ただし、請求項は技術的特徴を含めていれば、全体的に言えば知的活動の規則と方法ではないため、専利法第二十五条第一項第(二)号に基づきその専利権を獲得する可能性を排除してはならない。
3.請求項は技術的解決手段に属するかどうかに関する審査基準(第6.1.2節)が明確された。
改正には客体に関連する法条項の審査順序が明確された。保護が求められる主題については、まず知的活動の規則と方法であるかどうかを審査し、それから専利法第二条第二項に規定される技術的解決手段に属するかどうかについて審査を行う。請求項が技術的解決手段に属するかどうかを判断する場合、当該請求項の技術的解決手段、解決しようとする技術的課題、実現された技術的効果に対して分析しなければならない。それは「指南」の第二部分第一章において第二節に規定の「技術的解決手段が解決すべき技術的課題に対して自然法則を利用した技術的解決手段の集合である」などの判断原則に合致する。
4、進歩性の判断における関連考慮の原則がさらに明確された(6.1.3節)。
前述の通り、改正後の「審査指南」には、全体を考慮する原則が明確された。その原則は新規性と進歩性の判断にも適用する。また、進歩性の判断にあたっては、「審査指南」には、関連考慮の原則がさらに明確された。技術的特徴と機能上支持し合い、相互作用関係にあるアルゴリズムの特徴又は商業規則・方法の特徴と、前記技術的特徴とを一つの全体として考慮しなければならない。アルゴリズムの特徴或いは商業規則・方法の特徴が技術的解決手段への貢献を考慮しなければならない。同時に、「審査指南」は「技術的特徴と機能上支持し合い、相互作用関係にある」という概念についても説明と例示を行った。ここで、「技術的特徴と機能上支持し合い、相互作用関係にある」という表現は、国家知識産権局は2019年に配布の「専利審査指南」の改正内容である第三二八号公告第二部分第四章における第3.2.1.1節の進歩性の判断方法に明確された「機能上支持し合い、相互作用関係がある技術的特徴に対して、全体的に前記技術的特徴と彼らの関係が保護を求める発明での技術効果を考慮しなければならない」に関する表現とは一致している。
(二)審査例(第6.2節)
6.2節では、正と負の両面から授権客体と進歩性に関する審査例を10個増加した。例1-例6は授権客体に属するかどうかを判断するための審査例である。例1は抽象的な数学モデルの作成方法であり、専利法第二十五条第一項第二号に規定されている知的活動の規則と方法である。例2、例3と例4は人工知能、ビジネスモデルとブロックチェーン分野の授権可能な客体であり、例5と例6は負例である。例7−例10は、保護された方案が授権客体に属する場合に進歩性があるかどうかを判断する審査例である。例7と例9は進歩性を備えた例であり、例8と例10は進歩性を備えていない例である。6.2節の審査例は6.1節に記載の審査原則に対するさらなる解釈であり、これらの例を理解する際には、表現された審査理念と法の原則を重点的におくべきであり、機械的に適用すべきではない。
ここでは、その一部の例をさらに説明する。
例7はマルチセンサ情報に基づいてヒューマノイドロボットの転倒状態の検出方法である。その進歩性を判断する完全な考え方は以下のようである。検索を通して、引用文献1には、ヒューマノイドロボットの歩容計画とセンサ情報に基づくフィードバック制御が開示され、関連融合情報に基づいてロボット安定性が判断され、その中には、複数のセンサ情報に基づいたヒューマノイドロボットの安定状態評価が含まれることに気づいた。比較で、引用文献1を最も近い従来技術とし、本願の解決案と引用文献1との区別は、採用したファジー決定を実現するアルゴリズムであることが明らかになった。その上、当該アルゴリズムの特徴は、技術的特徴と機能上支持し合い、相互作用関係があるかどうかを判断し、即ち、緊密的に連結して、ある技術的課題を解決するための技術手段が構成され、対応する技術効果を実現できるかどうか、すなわち技術的貢献がなされているかどうかということをさらに判断し、肯定的な結論を得た後、本願が実際に解決した技術課題を確定する時、及び従来技術に示唆があるかどうかを判断する時、そのアルゴリズムの特徴を考慮すべきである。当該ファジー決定を実現するアルゴリズムもそれをロボット安定状態の判断に応用することも、他の引用文献に開示されておらず、公知常識でもないため、進歩性が認められた。
例10は動的見解推移の可視化方法である。その進歩性を判断する完全な考え方は以下のようである。検索を通して、引用文献1には、感情に基づく可視化分析方法が開示され、そのうち、時間は一本の水平軸として示し、それぞれのカラーバンドの異なる時間での幅はある感情のその時間点での大きさを示し、それぞれのカラーバンドは、異なる感情を示すことに気づいた。比較を通して、引用文献1を最も近い従来技術とし、本願の解決案と引用文献1との区別は、設定される感情の具体的分類ルールであることが明らかになった。感情分類ルールが異なっても、対応するデータを対象とする着色処理の技術的手段は同じである可能性があり、これを変えなくても良いため、上記感情の分類ルールと具体的可視化手段とは、機能上支持し合うことがなく、相互作用関係もなく、技術的解決に貢献もないことも明らかになった。本願が実際に解決した技術課題を確定する時、請求項は引用文献1と比較して、技術課題を実際に解決できないと認定することができる。さらに、請求項が進歩性を有しないという結論を直接的に得ることができる。ここで強調したいのは本願の請求項は引用文献1と比較して、技術課題を実際には解決できなかったことである、請求項自身がいかなる技術課題も解決しなかったことではない。「可視化」という課題は引用文献1では既に解決された。先行技術に対して、本願の貢献は、一種の新たな感情分類ルールを提出することである。なお、説明する必要があるのは、当該請求項について言えば、請求項は具体的な感情ルールの可視化問題を解決し、対応するデータに対して着色処理を行う技術的手段を採用し、人の目の視覚器官の自然属性を利用し、自然法則に従って、動的見解推移を示す技術的効果を得ることができたため、専利法第2条第2項の規定に合致する。
強調したいのは、アルゴリズムに関する専利出願に対して、請求項の適用シーンは最も近い従来技術のと同じである場合、区別はアルゴリズムの調整のみにあり、たとえば、同様に無人運転における障害物の識別に用いられても、請求項のアルゴリズムには、パラメータと公式が再選択・再調整され、実際に解決した技術課題は障害物検出の正確性を更に高めることであり、従来技術は全体としてこの問題を解決するための技術的示唆がなければ、請求項は自明なことではない。請求項と最も近い従来技術の区別は適用シーンが違うことのみにある場合、進歩性を判断する時、通常的には転用の遠近、難易度、技術的困難を克服する必要、技術的示唆の有無、転用による技術的効果などを考慮しなければならない。
(三)明細書と請求の範囲の作成(第6.3節)
1、明細書の作成の基本要求が明確された。(第6.3.1節)
アルゴリズムの特徴又は商業規則・方法の特徴を含む発明専利出願は、まず注意すべきなのは、このような出願の特殊性は、アルゴリズムの特徴又は商業規則・方法の特徴にあるため、明細書にはこれらの特徴を明確に記載しなければならない。次に、技術的特徴はこれらの特徴とどのように「機能上支持し合い、相互作用関係がある」上、共同的に技術課題を解決するかを明確に記載しなければならない。例えば、人工知能発明専利出願の場合、その内部運転の特殊性のため、発明がアルゴリズムの特徴を含める際に、抽象的アルゴリズムと具体的技術分野とを組合せてすべきであり、少なくとも一つの入力パラメータ及びその関連出力結果の定義は技術分野における具体的データに対応・関連する必要がある。ここでの「具体的技術分野と組み合わせる」とは、どの技術分野に用いられるかを簡単に記載するわけではなく、本分野の技術者が確認できるように、その組合過程を説明しなければならない。第三、明細書には、質、精度又は効率の向上、システム内部性能の改善等の有益な効果を明記しなければならない。必要の時には、詳細な解釈或は証明が必要である。第四、ユーザの視点からみて、発明でユーザ体験が客観的に向上し、即ち、ユーザ体験の向上が客観的であり、人によって違う主観的な好みでなければ、明細書に説明を加えると同時に、このようなユーザ体験の向上が発明を構成する技術的特徴と、機能上支持し合い、相互作用関係にあるアルゴリズムの特徴又は商業規則・方法の特徴とによって実現したか、を説明しなければならない。
2、請求の範囲の作成の基本要求が明確された。(第6.3.2節)
アルゴリズムの特徴又は商業規則・方法の特徴を含む発明専利出願は、請求項には、技術的特徴、及び技術的特徴と機能上支持し合い、相互作用関係にあるアルゴリズムの特徴又は商業規則・方法の特徴を記載しなければならない。
全体的に言えば、今回の改正は現行の専利法とその実施細則の枠組みの下で、人工知能等の新業態・新分野にかかる専利出願の審査規則に対する詳細化の規定であり、革新主体のニーズにタイムリーに応えるとともに、審査実践中の問題を解決することを目指している。一方、審査実践中に探索してきた有益な方法を「審査指南」にまとめ、審査基準を統一すると同時に、この種類の出願をより良く作成するための明確な指導を提出し、出願の質の向上を促進する。もう一方、審査の質と効率を高め続いて、新業態・新分野・新モデルの更なる発展を推進するために、この種類の出願の特徴と組み合わせて、技術的特徴及びアルゴリズム或は商業規則・方法などの知的活動の規則・方法の特徴を全体的に考慮し、発明の技術的貢献を正しく把握すべきことが明確された。
